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仙台高等裁判所 昭和54年(ネ)269号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二<証拠>には、昭和四九年一二月一八日及び昭和五五年一〇月一七日の当時における控訴人の健康状態について、後頭部打撲ないし鞭打症の疑い、あるいは頭部外傷後遺症兼胃潰瘍の疑いと診断された旨の記載がある。しかし、これらの診断においても、控訴人が現在訴えている不眠や倦怠感、身体のしびれ等の身体の不調が本件交通事故による頭部外傷の後遺症であると断定まではされないのであり、これらの証拠から右身体の不調を頭部外傷の後遺症と認定することはできない。

むしろ、当審における鑑定人大平信廣の鑑定結果によれば、控訴人の頸椎にはレントゲン検査による所見に異常がなく、脳にも外傷に起因する器質的障害がなく、頸椎運動や腰部運動時の頸筋痛及び左側腰部筋痛は日常生活でも容易に起りうる程度のものであつて交通事故と直接結びつけることは難かしいと鑑定されており、また、当審における鑑定人橘隆一の鑑定結果によれば、控訴人の頸部痛、頭重感、身体のしびれは頭部外傷後の賠償神経症の範ちゆうに入るものと鑑定されているのであり、これらの鑑定結果をも総合して考察すれば控訴人の右身体の不調と本件交通事故による頭部外傷との因果関係は、これを否定せざるをえない(賠償神経症は賠償に対する願望や賠償が受けられないことの不満を原因とする心因反応に他ならないのであつて、これと交通事故にもとづく受傷との間には通常の因果関係は認められない。)。

当審で新たに取り調べたその他の証拠によつても以上の認定及び判断(原判決の理由説示を含む。)を動かすに至らない。

三控訴人は、当審において同人が昭和四六年六月以来かかつている精神分裂症(病)が本件交通事故による頭部外傷の後遺症であると主張しており、<証拠>によれば、昭和四八年三月当時の控訴人の精神状態について、頭部外傷性うつ状態ないしはその疑いの診断がなされ、同年四月には精神分裂病(うつ状態)の診断がなされたが、後者の診断については、精神分裂病が患者個有の素質的な要素に起因して発病したものと考えるのが正当であること、ただし、頭部外傷が精神分裂病の発病に際して間接的な誘因となつたことを完全に否定することはできないとの意見が附せられている。また、<証拠>にも頭部外傷にもとづき精神分裂病様の症状を呈することもありうる旨の意見が記載されている。

しかし、これらの診断結果や意見も、控訴人の精神分裂病が本件交通事故による頭部外傷に起因して生じたことを断定していないのであり(前顕甲第八号証の二二の診断においても、精神分裂病の発病について頭部外傷が間接的な誘引になつたことを完全に否定することはできないとしているにとどまり、それが誘引になつたことを断定していない。)、これらの証拠によつては、控訴人の精神分裂病を本件交通事故による頭部外傷の後遺症と認定することは困難である。

むしろ、前顕各鑑定結果及び本件交通事故から控訴人の精神分裂病の発病にいたるまでの時間的な間隔と控訴人の生活歴(原判決の理由説示)を併せて考察すると、右精神分裂病の発病と頭部外傷との因果関係を否定するのが相当である。

原審及び当審において取り調べたその他の証拠にも控訴人の右主張事実を肯定するにたりる証拠はない。

(小木曽競 伊藤豊治 井野場秀臣)

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